ガイド記録 【無雪期アルパイン】八ヶ岳・大同心南稜ルート 2023年8月7日

ガイド記録 【無雪期アルパイン】八ヶ岳・大同心南稜ルート 2023年8月7日

2023年8月9日

兵庫から遠路来られたお客様を、八ヶ岳の大同心南稜にご案内しました。大同心は、どのルートも岩壁クライミングを必要とする、クライマー憧れの大きな岩峰です。その特異な形状は、横岳周辺のランドマーク的存在です。

岩質はお世辞にも良いとは言えません。岩壁には草もたくさん生えてるし、スッキリした感じではありません。しかしながら4本あるクラシカルルートの内、南稜は概ね岩が安定しており、ボルトなどの残置支点もよく整備されている為、多くのクライマーを迎えて賑わっています。

行程

05:30 朝食(赤岳鉱泉にて)

06:05 赤岳鉱泉出発(2220m)

     ↓大同心稜を登る(1h20m)

07:25 大同心南稜基部(2640m)

07:40 登攀開始

     ↓南稜~ドーム雲稜の登攀(1h50m)

09:30 ドーム雲稜の終了点(2720m)

09:35 下降開始

     ↓懸垂下降20m

     ↓大同心ルンゼの踏み跡を徒歩で下降

     ↓大同心稜   (下降:1h35m)

11:05 赤岳鉱泉

11:25 赤岳鉱泉出発

     ↓北沢登山道を歩く(1h30m)

12:55 赤岳山荘駐車場下山

記録

赤岳鉱泉で朝食をモリモリ食べてから、装備を整えていざ出発。出発から5分で大同心沢に入る。踏み跡はしっかりしているので、初めてでも迷うことはないだろう。

しばらく行くと、踏み跡が左手の尾根に乗り始める。これが大同心稜だ。樹林帯の急登をグイグイ登り、あっという間に高度を稼ぐ。あさイチでこの急登はなかなか心臓に堪える。標高2500m付近から辺りが疎林になり、通常であれば北アルプスや南アルプスが遠く望める。あいにくこの日は雲が周辺山域を覆っており、遠景を楽しむことはできなかった。

およそ1時間登ると、大同心が眼前に迫ってくる。大同心の上の方は霧の中でよく見えない。大同心稜の上部はとても急で痩せている。かつ道が脆くて非常に神経を使う。我々はロープを結んで所々隔時登攀で安全確保をしながら進む。

大同心稜が大同心の岩壁にぶつかる所で、岩壁の基部についた踏み跡を右にトラバースする。そして間もなく南稜ルートの基部へ到達した。

南稜基部はとうにガスの中で、霧雨が降っていた。だが辛うじて岩の濡れ具合は許容範囲だったので、登攀を始める。

■1ピッチ目 35m/Ⅲ

ガチャガチャしたフェイスのようなリッジの様な場所を登っていく。非常にルートファイディングをしにくい所だが、よく周りを見渡し、岩が安定していてかつ登りやすい場所を選んでいけば、しっかりしたボルトが要所要所に設置されている。非常に不安定なビレイポイントでピッチを切る。

2ピッチ目 35m/Ⅲ

1ピッチ目よりも傾斜が急になる。ここも一番登りやすくて岩が安定したところを選んで登っていくと、緩傾斜のリッジに出る。しっかりとしたアンカーでピッチを切る。ここは足場も安定しており、居心地は○。ピナクル頂上にもビレイポイントがあるが、どうもアンカーの強度が疑わしいし、ロープの流れが悪くなるので、手前で切った。

3ピッチ目 35m/Ⅱ

ピナクルへ登ったら、90度右に折れて慎重に下り、再び草付きを登ってドームの基部に到達する。中間支点はほぼ取れず、浮石だらけなので極めて慎重に足を運ぶ。難しさは無い。

4ピッチ目 ドーム雲稜ルートの最終ピッチ 25m/Ⅵ⁻,5.9

南稜だけだとたったの3ピッチで終わってしまうので、ドームの登攀を追加した。お客様の最高登攀グレードは5.9とのことで、ドームの基部に立った時点でお客様に体力と気力が残っていたら登攀しましょう、という事前のお約束になっていた。しかし私の心の中では、是が非でもここを登ってもらいたかったので(笑)、ドーム基部でお客様を煽り、「フォローなのでテンションかけてもいいからチャレンジしてみましょうよ!」とその気にさせて(というか無理やり笑)登攀実行。

このピッチは岩も硬めで、結構安心して登ることができる。ホールドもコブコブが色々あって、ガバだらけだ。2か所ほど傾斜がきつい場所があり、ここをどう突破するかが核心だ。傾斜が緩やかになったところで、立派なアンカーが迎えてくれて登攀終了。

20230807_002845387_iOS

       ↑核心部を抜けてウィニングランのお客様

終了点から1ピッチ20mの懸垂下降を始める。ここはたとえロープを2本持っていても、結索して下降しない方が良い。結び目が必ずどこかに引っかかって、登り返しが必要になってしまう。なので我々は50mロープ1本を折り返してダブルで下降。

20230807_003833696_iOS

その後は大同心ルンゼ内の急な踏み跡を、ロープで確保しながら南稜基部に戻った。

まとめ

お客様から後日メールを頂きました。「最後のドーム登攀は大変だったけど、チャレンジしてよかったです」と書かれてあり、やはり大同心ドームのてっぺんに立って頂いてよかったなと思いました。

大同心は全体的に脆いですが、南稜に限って言えば特に恐怖感なく登れる程度です。右フェイスは見た感じ本当に脆そうで、もうしばらく再登者を迎えてなさそうな感じです。

足並みの揃ったパーティなら、朝に美濃戸を出て、日帰りで大同心を登ってくることも十分可能です。その方が荷物が少なくてよいかもしれません。

参考情報

【使用ギア】

  • ロープ50m×1
  • クイックドロー×8
  • スリング120㎝×2
  • スリング180㎝×1
  • スリング60㎝×2

 ※岩の突起をプロテクションとして多用できるので、60㎝スリング・120㎝スリングは多めに携行するのがお勧め。