アルピニスト養成アカデミーは2021年7月21日~23日の間、北海道大雪山の名峰、トムラウシ山に源を発するクワウンナイ川を遡行していました。その模様をお伝えします。
1日目
8:20 駐車場発
入り口を間違える
9:25 正しい入口
10:00 ポンクワウンナイ川出合より入渓
15:00 825m地点ビバーク
2日目
3:30 起床
5:40 出発
7:40 化雲沢出合970m
9:10 魚留の滝1090m
15:00 1510m地点にてビバーク
3日目
5:00 起床
6:00 出発
8:00 登山道に合流
9:40 トムラウシ山頂上
9:55 下山開始
14:10 化雲岳
15:30 ポン化雲岳
20:10 天人峡下山
記録
朝に富良野を出た一行は、車で二時間で天人峡駐車場についた。残念ながらここにはトイレがない。
トイレを使う人は、ここから8.5㎞手前の公衆トイレを使用のこと。
初日は一日中ひたすらゴーロ歩きに徹する。技術もなにもあったものではない。標高の低い炎天下で、ひたすら暑さに耐えながらゴーロを歩かねばならない。
だがその我慢も6時間前後で翌日の天国歩きに繋げることができる。
クワウンナイ川への入り口は、駐車場からしばし車道を下ったところ、天人橋を渡り切った所で左手にある。クワウンナイ川本流からは遠いが、間違えなくここが入り口である。「クワウンナイ川・・・」と書かれた白い看板が目印だ。
そこから30分ほど昔使われていた林道を歩く。途中崩壊地があるので要注意。
林道が終わり、川原に降りる。すぐ目の前に、左からポンクワウンナイ川が合流している。ここの出合はビバークに最適地ではあるが、まったく進んでないので通り過ぎる。
天国の滑床歩きを味わう為には、それ相応の努力と苦難を乗り越えねばならないのである。
北国北海道といえど今夏は非常に暑い。たとえ足首から下が沢水に浸かっていても、熱中症への配慮は日中ずっと必要だ。
途中で持ってきたスイカを切ってほおばる。これがやたらと元気が出た。
多くのパーティは970m二俣でビバークをするようだ。ここはロケーションが最高で、数メートル川面から上がっているため安全度も高い。しかしながら人気のビバークポイントなだけに、薪となる流木があまりない。
我々は炎天下の歩行で頭もぼんやりしていたので、だいぶ手前の、825m付近の平坦で広い砂岸にてビバークをした。とても快適な寝床であった。
早朝の渓流への第一歩はいつも我慢大会だ。今日もまずはゴーロ歩きからスタートする。2時間して魚留の滝。川幅いっぱいに流れ落ちるこの滝はとても壮観である。この滝は左岸より高巻いて滝上にでる。そしてフワフワのコケの絨毯がびっしりとついた滑床をひたすら歩く。
途中に何個か滝が出るが容易に迂回できる。滝ノ瀬十三丁は初めて見るものを驚嘆させる。この時の受講生も、「想像以上にすごい」を連発していた。
いくら優しい滑床の景観といえど、足を滑らせると止まることなく、恐らく滝をジャンプして滑落することになるので、とても慎重に歩く。
2時間ほど滝ノ瀬十三丁を堪能したのち、轟音とともに流れ落ちる、ハングの滝にぶつかる。
この滝は右岸のガレから高巻く。この高巻きは危険度が高いと感じた。我々は安全第一で乗り越えるため、3ピッチのスタカットクライミングで乗り越えた。一番傾斜のきつい岩登りセクションには、フィックスロープが2本ほど垂れている。
実際このフィックスロープを掴みながら、垂直の岩を登っていくわけであるが、上についてフィックスロープの支点を見て愕然としているのは、我々だけではないだろう。
何しろ枯れ木の根元が支点になっているのだから…。なのでいくら岩場が簡単だからといって、自前のロープ確保なしに登るのは非常にリスクが高いと思う。スタカットで登ることを強く勧める。
ハングの滝を越えてしばらくは、スケールの大きくはないナメやゴーロが繰り返す。いつしか水量はかなり少なくなり、源流部に近いことを感じさせるようになる。
我々は二股の滝を越えて、その後1510m付近の草原地帯に今日の寝床を確保することにした。水場もすぐだし、ロケーションも抜群だ。
朝は結構冷えた。ファイントラックの寝袋・ポリゴンネスト4×3とシュラフカバーでは結構寒い思いをした。朝ごはんをちゃっちゃと食べて残りの標高を稼ぐ。ここからはいよいよ源流部で、水流はとても静かで穏やかになる。踏み跡をたどったり、時々水流にもどったり、雪渓を歩いたり。今年のクワウンナイ川は残雪が割と多く残っていた。
およそ2時間で縦走路にぶつかり、クワウンナイ川の遡行は無事完了した。ここから空身にてトムラウシ山を往復にかかる。日中の縦走路はとても暑い。熱中症でかがみこんでいる登山者を何度か見た。
トムラウシ山頂上は、驚くほど多くの登山者で賑わっていた。アルピニスト養成アカデミー構成員は、人混みが苦手な人が多いので、すぐに回れ右して山頂から離れ、岩陰にて少し休んでから大スペクタクル下山行を開始した。
沢と縦走路にデポしてあった荷物を担ぎ直し、長い長い下山を始める。化雲岳に登り返す頃、ようやく直射日光が雲にさえぎられるようになり、暑さとの格闘をしなくても済むようになった。
化雲岳からポン化雲岳までは標高は全く下がらない。下山であるのに標高は同じまま。
ポン化雲を越えてからようやく緩やかに高度が下がり始めた。
標高を下げれば下げるほど、再び暑さとの闘いが戻ってきた。
日暮れを少しだけ過ぎた20時10分、ようやく天人峡に戻ることができた。
この沢は美しさがとびぬけており、大人気の沢です。
しかしながら一歩選択を間違えれば大事故に繋がる要素は至る所に感じられました。例えば増水時のエスケイプが難しい、滝の高巻きがけっこう危険、稜線にでてから下山まで非常に時間がかかる、などです。間違っても初心者同士で入渓するのは避けた方が良いです。総合的な山の経験を必要とするルートでした。
滝ノ瀬十三丁はやはり何度見ても美しいです。あれを見るために1日目を我慢する価値はあると思います。
我々は安全の為、滝ノ瀬十三丁でもロープをアンザイレンして、場所によってはリードがフォローを確保しながら進みました。沢歩きが慣れていない人を同行させるときはロープ必携です。
今回我々が遡行した時は、1日早く別のガイドパーティが入っていましたが、彼らの気配や足跡を感じることは皆無でした。ガイドの方がローインパクトで沢を登ることを心掛けていらっしゃるんだな、と感心しました。我々はどうだったであろうか。後から来る人に不快感を与えるような足跡がなければいいな。
■使用した主なギア
・30mロープ1本・スリング数本・ビバークは完全なるオープンビバーク。念のためテントを携行したが、一度も建てなかった。ブランケット替わりにかけて寝た。
・ジェットボイル×1・ビリー缶×1・ガス缶230g×2
■テクニカルインフォメーション
増水は本当に気を付けたし。
我々は30mロープを持参したが、滑床で滑る心配のある人を連れていくときは、50mロープがあれば、岩を支点にしてビレイできます。
携帯トイレを持っていきました。オールクリーンに登りたいものです。