梅雨に入ってしまいましたが、わずかなチャンスを狙って衝立中央稜を登ってきました。意外にも概ね岩は乾いていて、楽しく登ることができました。
04:19 ベースプラザ発
↓林道歩き
04:50 マチガ沢出合
↓林道歩き
05:15 一ノ倉沢出合
ギア装着・朝食
05:42 一ノ倉沢出合発
06:10 テールリッジ末端
07:11 中央稜基部
↓順番待ち
07:40 登攀開始
↓中央稜登攀
13:35 衝立の頭
13:50 下降開始
↓同ルート懸垂下降
19:14 一ノ倉沢出合
19:33 一ノ倉沢出合発
20:17 ベースプラザ
ベースプラザ駐車場1階に車を止めて出発。施設内の階段を登り5Fまで上がる。そこからまた駐車場に出て、最後はスロープを上がれば道路に出られる。
お客様も自分も装備は軽いので、やや足早に林道を歩く。すでに日は上り、ヘッドライトは必要ない。
およそ30分でマチガ沢が見えてくる。稜線上部は雲がかかっているが、朝のマチガ沢の岩壁が赤く染まって美しい。
さらに25分ほど歩くと、いよいよ一ノ倉沢が視界に飛び込んでくる。
お客様が歓声を上げる。これを聞くとガイドも心が躍る。やはりこの壮大な景色をお客様に見てもらって感嘆してもらうのが、ここへ人を案内することの楽しみの一つ。
ソーラーパワーで明るく綺麗なトイレ前でひと休憩。ここのトイレ、おどろおどろしい一ノ倉沢にあって、その明るさが非常に際立つ良いトイレ。ちなみに昔の施設は一ノ倉沢の雪崩に壊されて、この新しいトイレができたのだ。それぐらいここの雪崩は勢いがある。こわいですね~。
今年の残雪量は結構少ない。出合からしばらくは沢をさけて右岸の踏み跡を歩く(ここは草木が鬱蒼と茂っていて、草かぶれになりそうだ)。
まもなく雪渓に降り立ち、足周りをチェーンスパイクで武装。チェーンスパイクは本当に便利な道具だ。アイゼンよりも軽快に歩けるし、何しろ軽くてかさばらない。クラシックなアルパインクライマーはカッコ悪がって使わない人が多いが、もっと使用していいと思う。(かくいう私も発売から何年もカッコ悪がって使わなかった笑)
出合からおよそ25分でテールリッジ末端。ここでロープを結ぶ。テールリッジは毎度岩壁本体以上に気を遣う。滑るし湿ってるし、手がかりないしでなかなか危ない。事実ここでの事故は後を絶たない。
テールリッジを登るごとに、衝立岩の大障壁が大きくなってきた。ますますお客様が感嘆の声を上げる。そうですよね、この大岩壁を間近でみるとおおーっ!てなりますよね!
テールリッジをおよそ1時間で処理して、中央稜の基部に到達。高めの気温と湿気で汗だくになってしまった。
先行登攀者が5名いたので、しばらく取付きで順番を待つ。今日は全然寒くないし風もないので、まっていても辛くはない。
30分待ったのち、いよいよ中央稜の登攀を開始する。
1ピッチ目は脆く縦ホールドばかりでいつも気持ち悪い。そしてそれにつづく2ピッチ目はいつも濡れていてもっと気持ち悪い。ここを慎重にこなして3ピッチ目へ。
2ピッチ目には偽物のビレイポイントがあり、これが間違った方へ誘うのでここは注意が必要。正しくは頭上に見えているボロボロビレイポイントへ行かずに、右のカンテをトラバースする。
トラバースしたらすぐ右に本来のビレイポイントがあるが、ボルトもピトンも錆び錆びなのであまり居心地が良くない。なので我々はさらに25m上にある3ピッチ目終了点までつなげる。ここはテラス上だし、ボルトもしっかり打ってあるので精神的に健全だ。
4ピッチ目はルートの核心部であるⅤ級のチムニー。チムニーはびしょびしょに濡れているので、チムニー左のリッジ状にホールドを求めて乗り越える。残置ピトンは色々あるが、物により抜けそうなのがあるので、ハンマーで打ち込んだりクイックドローをかけて引っ張ったりしてテストが必要。
この4ピッチで終了として下降する人が多いと聞くが、この上も高度感がすごいので是非衝立の頭まで完登したい。
ここからはガチャガチャしたルンゼをしばらく登っていく。梅雨時なだけあって、ルンゼ内はやや湿っぽいので、滑らないように慎重な足取りで登る。
どうも前のパーティさん5名の進行がとても遅い。致し方ない事なのだが、みているとあまりクライミングに慣れていないようだ。しかたなくここからは各ピッチで順番待ち。。。まあ天気も悪くないし、お客様と談笑する時間を楽しむことにする。(それにしてもあまりに進行が遅く、我々は予定よりプラス4時間ほど登頂が遅れた。あんまり辛口なことを言いたくはないが、もっとクライミングそのものもビレイポイントでの作業も素早くできるように練習してから来ていただきたいものだ。自分達だけなら良いけど、谷川岳のように天候急変が起こりやすい地域では、スピードの遅さが後続の人々の安全を脅かすことを認識して頂きたい)。
待ちに待った衝立の頭13:35到着。お客様とお互いを労い、固く握手する。そして時間がおしているので、即時懸垂下降に入る。先行パーティが北稜へ降りるので、我々は中央稜を下降する。
中央稜の上半部は、とても複雑な地形をしていて、とにかくロープの結び目が岩に引っかかりやすい。面倒でもロープ連結をせず、1本をダブルにして短いピッチで3~4回降りた方が結果的に早い。
4ピッチ目終了点からは50mロープダブルで2度の懸垂下降で取付きに降りられる。ようやくここで水を飲んだり食べ物を口に含んだり。
さてライトを照らしてのテールリッジ下降は嫌なので、日暮れ前の下山を目標に先を急ぐ。
この日のお客様は下山がとても滑らかで、山歩き慣れてるな~と感心した。このぐらい歩けると、安全を確保しながら色々なルートにチャレンジできると思う。やはり歩行技術というのはクライミングでも大切な要素なのだと思う。
テールリッジを下降中、よこの衝立スラブで大規模なブロック雪崩が頻発していた。ものすごい轟音だ。みていると大きな氷塊——およそ車大の――がテールリッジ末端をかすめて、衝立前沢出合付近まで転がっていっていた。やはりここを暗くなってから歩くのはかなり危険だと思う。
テールリッジ末端について靴にチェーンスパイクをはめ直し、最後の雪渓を慎重に下る。時々お客様とともに後ろの大岩壁を振り返っては、今日1日の登攀を思い出す。時間はかかってしまったけど、お客様の念願であった衝立岩中央稜の登攀を完遂できて本当によかった。清々しい思いだ。
一ノ倉沢出合のトイレ前で装備を解除したりしてひと休憩。私はとてものどが渇いていたので、トイレ横の湧き水をすくってがぶ飲みする。「ん~~~っ美味い!!」
ここでヘッドライトを点灯して、最後の林道を下っていった。お客様の顔は疲れているけれど、完登した帰りのお顔はとてもよい表情であった。